【心臓機能の基礎知識】
心臓は生命の維持に必要な血液を全身に送り出すポンプの役割をする重要な臓器です。全部で4つの部屋からなり、各々の部屋には大きな血管が付属し、規則正しく収縮と拡張を繰り返す筋肉(心筋)でできています。
【心臓の構造と血液の流れ】

血液の循環は、全身から帰ってきた血液が、まず右心房(1)に入り、三尖弁(2)→右心室(3)→肺動脈弁(4)→肺動脈(5)→肺(6)→左心房(7)→僧帽弁(8)→左心室(9)→大動脈弁(10)→大動脈(11)と流れ再び全身にめぐっていきます。
心臓の病気といっても先天性の心奇形や寄生虫病(フィラリア症)、弁膜症、心筋症等があります。心臓に寄生する虫(フィラリア)は飼い主様の知識の向上、予防医学の発達により近年ではめったに見られなくなりました。
弁膜症とは心臓内にある4つの弁(三尖弁、肺動脈弁、僧帽弁、大動脈弁)がうまく閉まらなくなったり(閉鎖不全)、狭くなったり(狭窄)する疾患で原因は不明です。犬(特に高齢期)では僧帽弁の閉鎖不全が多くみられ、あらゆる犬種に発生しますので、様々な心臓病の中から
犬の僧帽弁閉鎖不全症についてご説明いたします。
【僧帽弁閉鎖不全症】
心臓病の1つである僧帽弁閉鎖不全症は、この弁が完全に閉鎖できず、左心室が収縮する際に全身へ送り出されるべき血液の一部が弁の隙間から左心房へ逆流する状態をいいます。
症状
<発生初期>
・無症状。・心臓の雑音(血液が逆流する時の音)→聴診器で聴くことができます。
<発生中期>
・心臓の雑音→初期よりも大きな雑音を聴診器で聴くことができます。・運動を嫌がる、痩せてくる、食欲不振などの症状が見られるようになります。
<発生末期>
・心臓の雑音→胸に手を当てただけでも雑音が分かる様になります。・肺に血液がうっ滞し、肺に水が溜まることがあります(肺水腫)。・頻繁な咳や、舌の色が紫色(チアノーゼ)になる程の呼吸困難を起こすことがあり、放置すると心不全という状態に進行し、死亡する可能性が高くなります。
上記の症状がどれか1つでも見られたら当院にご相談ください。診断:身体検査およびレントゲン検査、心臓のエコー検査を行います。
(1)身体検査:心臓や呼吸の音を聴診したり、口内の粘膜や舌の色を見てチアノーゼを起こしていないか調べます。
(2)レントゲン検査:横向きと仰向けの胸部レントゲン写真を撮り、心臓の大きさや血管、気管支の様子を見ます。
(3)心臓のエコー検査:実際に心臓内の弁の動き方や血液の逆流を観察することにより、病気の進行の程度を知ることができます。
治療:心臓病の進行程度により血管拡張薬や強心薬、利尿薬などを組み合わせて使用する
内科的治療と
食事療法が治療の中心となります。
・ほとんどの心臓病において
生涯薬の投薬が必要となります。
・食事に関しては、
ナトリウム(食塩)の制限が必要です。心臓機能が低下しているときに塩分の多い食事をすると飲水量が増え、排泄されない水分が体内に蓄積して心臓に負担をかけます。例えば、人が食べる食事は犬にとって塩分が多く心臓病の犬に与えると危険です。
《日常生活での注意点》・心臓病は生命に関わる病気です。日常生活においては
極力ストレスを与えない工夫を心掛けてください。
・散歩や運動をするときは他の犬などに
興奮しない様にしたり、途中で疲れてしまう様な場合は長い距離はやめるなど、飼い主様が注意して
運動制限をしてあげなければいけません。
・長時間の車での移動や、周囲の環境が一変してしまう旅行などは落ち着けなかったり、興奮したりして心臓に負担をかけますので、できれば避けたいものです。
・心臓病は進行性の病気ですから、早期発見・早期治療が肝心です。中高齢(7歳以上)では、少なくとも
年に1回は定期的に病院で検査を受けるようにしましょう。当院でも定期健康ドックを実施しておりますので、お気軽にご相談ください。